こんな思いを俺もさせていたのかもしれない。同じ辞めるにしたって、引き留める相手の気持ちをまったく汲み取りもせず、自分のことしか考えていなかった。

 それが今になって、こんなかたちで返ってくるなんて。

「しっかりして、シュウくん! その立場にならないと分からないことなんて山ほどあるよ。でもシュウくんはちゃんと気づけたじゃない」

 力強いユイの声に俺は視線をそちらに向ける。するとユイはかすかに笑った。

「章吾くんは『辞めるかも』って言ってたからまだ迷っているんだと思う。シュウくんに背中を押して欲しいのか、止めて欲しいのかは分からないけど。でも、ちゃんと話しを聞いてみようよ。縁のことだってあるんだから」

 その言葉で俺は目が覚めたような感覚だった。ユイの言うとおり、感傷に浸っている場合ではない。

 ちゃんと章吾の話を聞いてみよう。向こうも、なにか引っかかっているものがあるはずだ。だから、俺にわざわざ言ってきたんだ。俺は体を勢いよく起こしてユイに向き直った。

 ユイは待ってましたと言わんばかりに、顔の前でピースを作り二本の指を立てる。

「とにかく話を整理しよう。私が見た男の子たちは間違いなく憲明くんと章吾くんだった」

「ふたりは別々に来たんだよな?」

 確認するとユイは力強く頷く。

「うん、一時間以上は空いてたかな。先に来たのは章吾くん。すごく思い詰めた顔をしていたのは、やっぱりバレエに悩んでいたのかな?」

「だとすると、なんで憲明に縁が結ばれているんだよ」

 素早い指摘にユイが少しだけ考える素振りを見せ、黙り込んむ。