「ちょ、どうしたんだよ? どっか怪我でもしたのか?」

 つい食ってかかる勢いになってしまったが、章吾はいつもどおりだった。俺だけが熱くなる一方だ。

「どうしたんだよ。お前、バレエあんなに好きだったじゃん」

 章吾はなにも答えない。先にバレエを辞めた俺が、偉そうに言えることなどなにもないのに。

 でもどうしてかは分からないが、胸がざわついて苦しくなってくる。章吾は俺と違ってプロを目指しているわけでもコンクールにばんばん出場するタイプでもなかった。

 けれど、いつもマイペースで楽しそうに踊っていた。あまり口数が多くない章吾が、舞台では役になりきって活き活きと表現する様は見ていて気持ちが良かった。それなのに。

「楽しくなくなったんだ、踊るのが。つらいんだよ。もういろいろと嫌になったんだ」 

 苦々しく章吾が吐き捨てた。それから章吾がゆっくりと立ち上がる。気づけば、章吾の乗る電車が間もなくホームに入ってくる時間だった。

 改札口まで歩き出す章吾のあとを俺とユイで追う。

「まだ誰にも言ってないから。憲明や菜穂子先生にも。だから言わないで欲しい」

「お前、本気なのか?」

 章吾はやっぱりなにも答えず、こちらに向かって一礼すると改札口の向こうへ消えていった。俺はただ、そのうしろ姿を呆然と見つめるしかできない。

 聞かされた内容が衝撃的過ぎて、俺は本来の目的である章吾にあの日、月白神社に行ったのかという質問をするまでもいたらなかった。