教室を出る頃には、雨はだいぶ小降りになっていた。この分なら帰りは母親に迎えを頼まなくても大丈夫そうだ。

 章吾は電車でレッスンに通っているのでどちらからともなく自然と駅の方に歩いていく。こうやって電車の待ち時間にくだらない話で盛り上がったのを思い出す。

 駅構内は教室よりはマシだが、ここも蒸し暑い。飲み物を買おうと俺は近くの自販機を目指した。章吾に「いるか?」と尋ねたが、練習用に持ってきている飲み物が残っているらしく俺は結局、自分の分だけお茶を購入した。

「足はどう?」

 待合スペースの長椅子に腰かけたところで、いきなり話題を振られて心臓が跳ねる。しかし当然の質問だろう。バレエを辞めてから連絡を絶っていたのだから。

 章吾は憲明とは違って、どちらかといえば無口でいつも淡々とした物言いだった。俺はおずおずと返す。

「怪我自体はすっかり良くなった。……バレエ辞めてから、連絡もせずにごめんな」

 沈黙が降りてくる。章吾はなにも言わない。俺の胸中はようやく謝れた安堵感と反応がない不安で掻き乱されていた。

「そ、そういえば、話ってなんだよ?」

 この空気を変えたくてわざと明るく尋ねると、黙ったままだった章吾の唇がおもむろに動く。

「俺もバレエ辞めるかも」

 聞き間違いを疑う。俺の表情も、脳もフリーズした。

「え? は? 辞める!?」

 たしかめる気持ちもあって聞き返すと、章吾は軽く頷いた。そこで言われた言葉をやっと理解する。