「みんな細いね。しかも足長ーい」

 感嘆の声を漏らし、ユイがきょろきょろと辺りを見回している。レッスン場の一面だけ鏡になっているが、そこにユイの姿はもちろんない。

 そこで俺は端の方のバーでまだ自主練習をしている一番背の高い男に近づいた。相手も鏡越しにこちらの存在に気づき、上げていた足を下ろす。ユイもその顔を見て「あ」と小さく呟いた。

「よぉ」

 軽く手を上げた俺に対して、相手は俺よりも少し高い位置にある頭を真面目に下げた。章吾は背も含めて総合的にがたいがいい。

 ダイナミックな踊りは迫力があって羨ましかった。そのわりに顔は繊細で妙な色気があるっつーか。学校でのことは知らないが、泣きぼくろも似合っていてバレエで一緒の女子にもモテていた。

 そんな章吾に今、憲明の足に繋がっていた縁と同じ物が結ばれている。

「どうしたの、突然?」

 章吾の声を聞くのも久しぶりだが、その声にあまり驚きは含まれていない感じがした。

「憲明に会ってさ。あいつ怪我したらしいな」

「らしいね。発表会には間に合うとは思うけど」

「そうなのか?」

 なんとなく憲明の言い方は、自分の分も章吾に踊ってもらう、という感じだった。章吾はタオルで乱暴に汗を拭うと、改めて俺と目線を合わせる。

「あのさ、ちょっと帰りに時間ある?」

 縁に関して知りたかった俺にとって、もちろん断る理由はない。こっそりとユイと目配せし、俺たちは章吾の話を聞くことになった。