午前中の授業が終わったのと同時に俺は机に突っ伏す。古典が昼食後ではないのは助かった。どうも眠くて体が重い。というより今の俺は、どんな授業にも集中できずにいた。

 それでも、憲明に言われたことや、縁を確かめるためにもバレエ教室に顔を出す決意をして、昨日神社から帰ったあとで、菜穂子先生に久々に連絡をとってみた。

 本当は電話をするのが礼儀だとは思うのだが、相手も忙しいし、緊張もあって、やりとりしていたLINEからメッセージを送る。その文章を考えるだけでざっと一時間は悩むという始末だ。

 ビビりつつ送信すると、意外にも返事はすぐに来て、今週のボーイズのクラスに顔を出す段取りがあっさりと決まった。最後に『待ってるからね』とつけてもらえたのが、申し訳ないような有難いような。

 バレエを辞めるとき、母親と菓子折りを持って挨拶に行ったのが最後だ。菜穂子先生に会うのも、教室に行くのも。

 怪我をした挙句にコンクールに出られなかったことも相まって、俺は最後の挨拶のときも、必要最低限の言葉だけで、あとはほとんど口を利けなかった。

 もう二度と教室に行くこともないと思っていた。まさかこんな形で訪れることになるとは。これもユイのいう縁なんだろうか。

 机に突っ伏したまま手のひらを握る。そして、ひんやりとした机に頬を押しつけた。縁のこともあるが、次の新月まで二週間を切っている。

 このままユイと別れてしまうんだろうか、終わってしまうのか? なにか、俺がユイのためにできることはないんだろうか。