「章吾はさ、今日は一緒に来てんの?」

 なにげなく尋ねた問いかけに憲明は目を白黒させた。

「え、なんで? たしかに今日はレッスンが休みだけど、怪我していない章吾が一緒に来るわけないでしょ」

「まぁ、そうだよな」

 当たり前のことを聞いて確認を取ると、俺はわざとらしく憲明から視線をはずしてユイの方に顔を向けた。そしてユイと目線を合わせると思い切って核心に触れる。

「今日さ、病院の前にここに来たのか?」

「え、どうして知ってんの!? 神社にいたの?」

「いや、なんか初めてここに来たって感じでもないから」

 随分と苦しい言い訳だと自分でも思う。でも、俺がそう感じたのは事実だった。ユイの話を差し引いても、憲明はここに初めて来たという感じではない。

 だいたい初めて来る人間は、もう少し周りを(うかが)ったり、ある程度の慣れない雰囲気がある。憲明にはそういうのがなかった。

 不審がられるだろうかと思っていると、憲明はふっと肩の力を抜いてため息をついた。

「シュウくんってさ、昔からそういう洞察力はすごかったよね」

「そうか?」

 素で聞き返す。今回はユイの証言があって縁も見えているからという理由で聞いただけだ。元々、俺は細かいことに気づく人間ではないように自分では認識している。

 ところが憲明は強く肯定する。

「そうだよ。菜穂子先生の機嫌にいち早く気づいて、上手く立ち回ってくれたり、同じボーイズのメンバーが喧嘩したり気まずい雰囲気になったら、わざとらしく間に入って仲を取り持とうとしてくれたりさ」

 言われてみればそうかもしれないが、憲明の言うほど立派なものでもない気もする。憲明は面倒くさそうに視線を神社の入口の方に向けた。