病院を出て俺は無意識にため息をついた。憲明の件を聞けたのはよかったが、神社に関しては収穫なしだ。そもそもユイは何者なのか、本当に神様であそこにずっといるのか。

 神様ってもっと昔の人だったりするんじゃないのか? ユイは何十年も何百年も前からあそこにいるのか?

 ユイ本人に直接聞いてみても『分からないし覚えてないよ。気づけば、ここでずっと参拝に来る人たちの縁を叶える手伝いをしているの』と曖昧な回答しか得られなかった。

 そして、おそらくユイ本人は気づいていないだろうが、ユイから繋がっていた縁はなんだったのか。今の俺が自分の縁を見ることができないように、ユイもきっと自分の縁は見えていなかったはずだ。

 しかしユイの縁はあの満月の日にちらりと見えただけであれからは見えない。だから色も分からないし、あれがユイの縁だったと確信も持てない。

 俺は頭を抱えた。今更ユイのことを知ってどうする? 知ったところでどうするつもりなんだ。一緒にいられる時間はあと少しで、元々住む世界も違う。この状況の方がおかしいのに。

 それでも、俺はなにかに(あらが)おうと必死だった。ユイは俺と過ごすのが残りわずかだという事態にどう思っているんだろうか。なぜかそれだけは聞けずにいる。

 そして、あれこれ考えて俺は月白神社に足を進めた。最早、用事がなくても神社に通うのが習慣になっていた。

 向かう途中であるものに気づく。もう随分と見慣れた、でも毎回違う、俺の目の前に今映っているのは青の鋭そうな縁だった。

「あ、シュウくん。リハビリどうだった?」

 ユイはいつもと変わらない調子で俺を見つけると手を振って話しかけてきた。

「誰か来たみたいだな」

 その言葉にユイは弾かれたように説明を始める。

「そうなの! さっき中学生くらいの男の子が来てたよ。別々にだけどふたりも来てくれて。縁が見える?」

「ああ」

 どうやら時間がないのにも関わらず、俺はこの縁について調べるのが先らしい。そしてユイの言葉と自分の目に見えているものとの間に違和感を覚える。