想いを通わせたときに彼はなにを思っていたのか。自分のせいでジゼルが死んでどう思ったのか。

「アルブレヒトはきっと恋に落ちていたんだよ」

 急にユイが真剣みを帯びた声ではっきりと言うので俺は改めてユイの顔を見つめた。たった今、簡単なあらすじを聞いただけで、どうして断言できるのか。

 いつもならそうやって返すのに、今はなにも言えない。怖いくらいユイの顔が悲しそうで、それでいて真っ直ぐだったから。

 彼女のうしろでは手が届きそうなほど大きな月が真ん丸く光っていた。今日は満月だ。

『もちろんずっとなんて言わないから。次の新月まででいいの』

 このタイミングでユイの言葉が頭の中で再生された。どうして忘れていたんだ。こんな関係が、こんな時間がずっと続くことなんてないと最初から分かっていたのに。

 俺たちの別れは決まっている、まるでアルブレヒトとジゼルのように。

 会うことさえできなくなる。ここのところずっと一緒にいたから忘れていた、むしろ考えないようにしていた。当たり前のことを、月は満ちれば欠けていくのだということを。

「せっかくだから、シュウくんのアルブレヒト見たいなぁ。またいつか踊って見せてよ!……シュウくん?」

 名前を呼ばれて我に返った。気づけばもう家の前だ。そういえば、この縁を見る力は満月のときが一番強くなるとユイは言っていた。

 それならこれは幻ではない。ユイからかすかに繋がっている今にもちぎれそうな縁はキラキラと月明かりを反射して輝いていた。