「好きというか、俺に合っていたのはジゼルのアルブレヒトかな」

「アルブ……」

「アルブレヒト」

 一度では名前が覚えられなかったユイに、再度俺はゆっくりと名を告げる。

「どんな話なの?」

 話の内容を告げようとすると自然と頭の中にジゼルの音楽が流れてくる。俺は簡単にユイにあらすじを話した。

 物語の名前にもなっているジゼルは心臓が弱くも明るく踊りが好きな村娘だ。そこに貴族でありながら身分を隠したアルブレヒトが近づき二人は想いを通わせる。

 しかし、アルブレヒトには婚約者がおり、ジゼルに想いを寄せる村の青年ヒラリオンによってそれらの事実は暴かれてしまい、ショックでジゼルは息絶えてしまう。

「ジゼルは死んじゃうの?」

 悲しそうに聞いてきたユイに俺は静かに頷いた。

「元々この話は、結婚前の女性が死ぬとウィリと呼ばれる精霊になるっていう伝説が元らしいんだ。ウィリは夜な夜な墓場から抜け出して、通りかかった男を死ぬまで踊らせるんだと」

「こ、怖いね」

「女の執念は恐ろしいんだよ」

 そう口にしたら、バレエ教室で一緒だった女子たちから非難轟々(ひなんごうごう)だったのを思い出す。俺は気を取り直した。

「で、ジゼルもそのウィリになるんだ。ジゼルを死なせた後悔で、ヒラリオンは墓場を訪れるんだけど、ウィルたちに捕まって殺されてしまう。さらに同じようにやってきたアルブレヒトもウィリたちによって死ぬまで踊らされるんだ。ジゼルはアルブレヒトは助けてくれ、とウィリの女王に懇願するも聞き入れてもらえなくて、ふたりは一緒になって踊り続ける」

 そこで俺は一息ついた。ユイを見ると、続きを促す期待あふれる目でこちらをじっと見ている。そして続きを話さない俺に対して痺れを切らしたように口を開く。