夜の(とばり)も下りてきて、さすがに暗くなった。駅への送迎のためロータリーにせわしなく車が行き来し、そのヘッドライトに目を細める。

 俺は家の方に歩きはじめた。なにも言わずについてくるユイに、少し離れたところで声をかける。

「ユイ、ありがとな」

 顔を見なくてもユイが驚いたのが気配だけで伝わってきた。

「え、私、なにもしてないけど?」

「でも、ついてきてくれたじゃん」

「ついてきただけだよ」

 確かめるように俺の隣にやってきたので、俺は顔をちらりと横に向けた。

「あと、最初に美由紀さんのこと聞いてきたとき、ひどい態度とってごめん」

「どうしたの、シュウくん? 熱でもあるの!?」

 とんだ言い草だ。本当はもっと早くに謝りたかった。八つ当たりまがいの態度をとってもユイは変わらずに俺と接してくれた。

 それでも傷つけたのは事実だ。美由紀さんにしたって、俺は自分のことばかりで、まさかあんなふうに自分を責めているなんて思いもしていなかった。

 自分だけが一番傷ついてつらいのだと殻に引きこもっていた。その殻を出ないと、気づけないものは沢山ある。

 そして強引に殻を破いてくれたのは――

「美由紀さんも言ってたけど、私もシュウくんの踊りを見てみたいなー。ねぇ、シュウくんはどの踊りが一番好きだったの? バレエもいろいろあるんでしょ?」

 思い出したようにユイが尋ねてきた。そこにはいつもバレエの話をするときの遠慮がちな態度はない。

「言ったところで、分かんのかよ」

「そ、それも含めてシュウくんが解説してよ」

 図星をさされて少しふてくされるユイに俺は笑った。顔を上げると珍しく空に雲がかかっていない。明日も天気かもしれない。