「俺、今もバレエが好きです!」

 なんの躊躇いも迷いもなく、すんなりと言葉がでてきたことに自分でも少しだけ驚いた。すぐに気を引き締め、顔を上げた美由紀さんに微笑みかける。

「美由紀さんの踊りを見るのが好きでした。美由紀さんにずっと憧れてました。俺をここまでバレエにのめり込ませてくれたのは美由紀さんのおかげなんです。こんなにバレエを好きになれたのも。だから謝らないでください」

 美由紀さんの綺麗な顔が一瞬だけ歪んで、そしてすぐにいつもの笑顔になる。

「そうやって、シュウくんがいつも励まして、応援してくれていたから、私も頑張れたんだよ……ありがとう」

「俺も、ありがとうございます」

 謝りたかったわけじゃない。謝って欲しかったわけでもない。本当はずっとお礼を言いたかった。『プロになる』という目的は叶えられなかったけれど、だからといってバレエに注いできた情熱は本物だ。

 無駄なものじゃなかった、誇れるものだと、少なくともそう思っても肯定してくれるやつが今はそばにいる。

 美由紀さんもゆっくり立ち上がった。

「受験とか、ご家族の意向とかいろいろあると思うけど、でもシュウくんにはまた踊って欲しいな。私もシュウくんの踊りが好きだったよ」

 そう言い残して、美由紀さんは再びレッスンに戻っていった。通いなれた教室に向かっていく美由紀さんの背中を、自分に重ねあわせる。

 美由紀さんの向かう先には、変わらないあの光景が広がっているんだろうか。