そのユイと一度視線を交わらせてから、俺は美由紀さんの方を向いて意を決した。

「美由紀さん、いろいろとすみませんでした」

 硬い声で頭を下げて謝罪すると、美由紀さんは大きい目をさらに真ん丸く見開いた。美由紀さんの言葉を待たずに俺は続ける。

「あんなにお世話になって、アドバイスもたくさんしていただいたのに、プロになるどころか、コンクールで結果も残せなくて。怪我したのもあったけど、結局は俺の実力が足りなかったんです。それなのに、逃げるようにバレエを辞めて、連絡も断っちゃって。本当にすみません」

 心臓がバクバクと音を立てている。こんなに緊張するのはコンクールで踊る以来だ。電車がホームに入ってくるアナウンスや人々のざわめきで、辺りはそれなりに騒々しかった。

 それでも俺たちの周りだけはどこか静けさが包んでいる。

「シュウくんが謝る必要はないよ。私の方こそごめんね」

 静かに呟かれた言葉に今度は俺が目を見開く。美由紀さんはこちらを見ずに目線を下にしたままだった。

「無責任に『シュウくんならきっとプロになれるよ』って言っちゃって。プレッシャーを与えてたんじゃないか、ずっと気にしてた。私が余計なことを言わなければ、今でもシュウくんはバレエを辞めずに、好きでいたんじゃないかって」

「そんなっ!」

 思わず俺は立ち上がった。美由紀さんが俺にそんな気持ちを抱いていたなんて微塵も想像していなかった。俺はぐっと息を呑む。そしてそのまま美由紀さんの真正面に立った。