「あー、もういいわ。今日はちゃんと『素敵な彼氏ができますように』って願っておいたから、きっと叶うって信じてるし」

 そう言ってこちらを見ずに来た方向へと戻っていく。しかし、ふと立ち止まると「ねぇ」と声をかけてきた。

「もし、あんたが本当に縁が見えるなら……私はまた誰かと繋がっている?」

「繋がってるよ」

 あまりにも力強くはっきりと答えた俺に対し、佐原はこちらに振り向いて驚いた顔を見せた。しかしその顔がすぐに笑顔になる。晴れやかな明るい表情だった。

「なら、いいわ。せっかくこうして知り合えたんだし、また学校で会っても声かけてよね、私もかけるから」

 俺は「ああ」と短く返事をした。今度こそ佐原の背中は遠くなっていく。

「……シュウくんはあれでよかったの?」

 佐原の気配がなくなったのを見計らって、ユイが遠慮がちに尋ねてきた。

「なにが? 縁の話をしたの、まずかったか?」

 おそらく、というより絶対に信じてはいないのだろうけれど。少し話を盛ってしまったが、下手に嘘をつかずに、佐原の疑問に素直に答えただけだ。

 しかしユイは眉を寄せて、珍しく眉間に皺を寄せた。

「シュウくんの鈍感」

 ふくれっ面で言われた言葉の意味が理解できず、「どういうことだよ?」と返したがそれにユイからの返事はなかった。

 なんだってそんなことを言われなくてはならないのか。はなはだ疑問だ。とはいえ、その疑問を解決するよりも先に、俺にはやらなくてはならないことがある。

「あのさ、ユイ」

「なに?」

 改めて声をかけると、ユイはきちんと答えてくれた。少しだけ躊躇ってから俺は口を開く。

「このあと、ちょっと付き合って欲しいんだけど」