「あんたに言われて、自分の気持ちをぶつけてみてよかったわ。すっきりしたし、ようやくこれでちゃんと終われた気がする……ありがとう」

 最後は消え入りそうな声でかすかに呟かれた。 

「別に俺はなにもしてねえよ」

「あんたってさー」

 さっきまでの緊張が混じった声から急にいつもの佐原のトーンに戻った。隣にいる俺をわざわざ覗き込む形でこちらを見てくる。

「放課後にこんなところでひとりでいるくらいだから、彼女とかいないんだよね?」

 近くの病院に足のリハビリに来ている旨を告げようかとも思ったが、こちらの事情を話すのも面倒に思えた。なので俺は軽く肩をすくめて、黙ったままでいる。

「ここで一回会っただけなのに、あんたがここまで私を気にかけてくれたのは、私のことが好きだから?」

「ええええ!?」

 俺がなにか言う前に声をあげたのはユイだった。もちろん佐原には聞こえていない。そっちに気をとられ、続けて視線を佐原にゆっくり戻すと、佐原は俺と目を合わせようとせず、どこかそわそわしていた。

「……俺さ、縁が見えるんだ」

「は?」

 ところが、唐突な俺の発言に佐原は目を丸くして固まった。それはユイも同じで、俺はおかまいなしに話を続ける。

「だからお前がここに来たときに『彼氏が欲しい』って言いつつ、本当は藤本に未練タラタラなのが分かって、ちょっとお節介をした、それだけ」

「なにそれ」

「安心しろ、それはもう綺麗さっぱりに消えてるから」

 やや怒った表情を見せていた佐原は肩をがくりと落とす。

「なに? あんたって実は天然? 不思議ちゃん?」

「さぁな」

 かすかに笑みを浮かべて、それ以上なにも答えないでいると、佐原は前触れもなく立ち上がった。