あれから一週間、佐原とは顔を合わす機会はなかった。隣のクラスとはいえ、会いに行くほどの用事もないし、会ったところでなんて声をかけていいのかも浮かばない。

 今日は久々に午後から雨ではなく曇りの予報だったので月白神社に来ていた。古びた青色のベンチに腰かけ、近くのコンビニで買ったアイスキャンディを袋から取り出して口にくわえる。

 最初は冷たさで味をあまり感じないが、徐々にみかんの甘味が口の中に広がっていった。

「佐原さん、どうしたんだろうね」

「さぁな」

 ユイが隣に座ってこちらを見ずに言ったので、俺は素っ気なく返した。俺はユイと違って神様でもなければ、縁に触ることもできない。

 佐原の縁がどういうものだったのか。あいつがなにを望んでいるのかは、分からずじまいだった。ただ、俺の視界に紫と緑の縁はもう映っていない。

 行儀悪く背もたれに背中を思いっきり預けて空を仰ぎ見てみる。雲の合間から微かに太陽が顔を出して明るさを届けてくれるが、流れていく速い雲のおかげでそれは一瞬だった。

「でもシュウくんの言葉、胸に響いちゃった」

 突然、ユイがわざとらしく明るい声をあげた。

「『恋をしたことがない』とか言いながら、佐原さんにかけた言葉を聞いたときなんだかドキドキしちゃったよー。さすがシュウくん!」

 俺はユイの顔をじっと見つめる。あんなふうに俺が言えたのは、ユイが俺にかけてくれた言葉のおかげなのだが。そもそも恋ではなくバレエに置き換えただけだし。

 第三者として、俺も自分の気持ちを客観的に見ることができた。もしユイがいなかったら俺も今頃、佐原と同じく荒れたままだったかもしれない。