でも、それで満たされたのかと言えばそうじゃない。そうじゃなくて――

 俺は真っ直ぐに佐原を見た。

「佐原の気持ちは分かんねえよ。でも、好きだったものを諦めるために、必死に嫌いになろうとして苦しいのは、俺にだって経験ある」

 そう告げると、(きょ)()かれた顔を見せて佐原は肩を震わせた。それからおもむろにうつむく。

 嫌いになれたら、憎めたら楽なんだ。でも本当は嫌いになりたいわけでもない。諦めないといけないのが簡単にできないから苦しくて、相手のせいにして、自分を傷つけることしかできない。もっと自分が(むな)しくなるだけなのに。

『でもシュウくんは、自分を信じて頑張ってきたじゃない。それ自体を否定しないでよ』

 結果だけしか求められない中で、その過程を評価されることは滅多にいない。だから結果だけを見て、すべて無駄だったと切り捨てるか、なにか意味を見出せるのかは、自分しかできない。

 ユイに言われて俺も気づいたんだ。

「佐原が藤本をそれだけ好きだったから、つらかったんだろ? なら、その気持ちを藤本本人にぶつけたってばちは当たんねえんじゃねえの」

 佐原はなにも反応しない。俺もこれ以上、どう続けたらいいのか言葉が出ない。ただ佐原の雰囲気から、なにかを必死に堪えているのを感じた。

 だから俺は黙ってその場をそっとあとにするしかできなかった。

 これでよかったのか? 佐原と藤本を結ぶ縁はどうなってしまうんだろうか。ふわふわと緑と紫の縁は相変わらず二人を結んだままだった。