そしてさっきまで佐原と一緒になっていたユイも少しだけ悲しそうな顔をしている。それが気になって視線を送るとユイはぽつりと呟いた。

「藤本くんは本当にひどいと思う。佐原さんも、こんなに傷ついて。でも、今の佐原さんは自分で自分をもっと傷つけているみたい」

 その言葉に俺は目を見張った。自分に言われた気がしたからだ。もう一度佐原に視線をやると、まだ藤本や木村に対して罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせている。

 彼女から漂う紫と緑色の縁がやけに色濃くて、佐原自身を締め付けているように見えた。
 
「そういう言い方はやめろよ」

 いきなり口を挟んだ俺に対して、佐原は黙る代わりに眉を一気につり上げた。

「なによ、やっぱりあんたあいつの」

「藤本のためじゃない」

 俺は遮って言い放ち、そしてすぐに次の言葉を続ける。 

「お前さ、まだ藤本が好きなんだろ?」

「はぁ? あんた私の話聞いてた? むしろ憎いくらいで大っ嫌いだって」

「だとしても、そんなふうに藤本を悪く言うのはやめろよ。自分のために」

 俺の発言に佐原の顔は険しさを増していった。

「あんたになにが分かるわけ? 偉そうに」

 佐原の言うとおりだ。俺に偉そうに意見できることは、なにもない。でも佐原を見ていて、ユイに言われて気づいたんだ。

 佐原の態度は、まるでバレエを辞めたときの俺だ。あんなに好きだったのに、結果が残せないことで、なにもかもが嫌になって、それまでの人間関係も全部断ち切った。

 無駄なことをしたと自分を罵った。好きだったバレエが憎くなって、嫌いだと思った。向いてなかったと自分に必死に言い訳して、まさに酸っぱいぶどうだった。