『いーい。女が愚痴ったり、『どう思う?』とか聞いてきても、それは意見を聞いてないの。ただ同意して欲しいだけなんだから。あんたも彼女のひとりくらい欲しいなら、そういうことを覚えておきなさい』

 別に彼女を欲しいと言った覚えはないが、姉ちゃんのご高説が頭の中を過ぎった。そして俺は言葉を選ぶ。


「それは……災難だな」

「「災難!? それだけ?」」

 隣と前からの声がかぶって俺は眩暈がした。精一杯、同意したつもりだったのに佐原も、そしてユイも気に入らなかったらしい。ふたりとも不満の色を顔に浮かべている。

「まぁ、藤本には、藤本の言い分があるんじゃねぇの?」

「あんた、あいつの味方するわけ?」

「そうだよ、シュウくん!」

「そういう意味じゃないけど」

 ただなんとなく、ここで藤本のことを悪く言ってもなにも変わらない気がした。なにより、佐原はそんなことを望んで俺をわざわざ呼び出したんだろうか。

 佐原は椅子に乱暴に座り直して長い髪を掻き上げた。

「あー、もう本当に最悪。正直、不幸のどん底に落ちて欲しいわ。木村ともさっさと別れたらいいのに」

 毒々しく佐原は吐き捨てた。こんなふうに思う佐原を誰が責められるだろうか。

「もうね、マジでありえない。私の青春返してって感じ。あんなに好きで尽くしてたのが馬鹿みたい。あんなやつのどこがよかったんだろ? 今じゃ顔も見たくないくらい。マジでムカつく」

 その言い分がなぜか俺には他人事に思えなかた。理由ははっきりしないが、胸が軋む。