「で、用事ってなんだよ」

「べっつにー。なんか、あんたには妙なところばかり見られてるから。ちょっと縁を感じちゃって」

「なんだそりゃ。お前と縁があるのは俺とじゃなくて藤本の方だろ」

 言ってから俺は「しまった」と思った。俺には縁が見えるからなにげなく発してしまった言葉だが、そんな事情は佐原は知らない。

 俺の発言を受け、佐原の顔は昼休みに廊下で藤本とすれ違ったときのように強張った。重たい空気に包まれ、しばらくして佐原が盛大なため息をつく。

「縁なんてないよ。大河(たいが)とは……藤本とはもう別れてるし」

 大河というのは藤本の名前だ。それから佐原は目の前の長机にだらしなく体を預ける。長い髪の毛が惜しげもなく机の上に流れた。

「あいつとは中学のから一緒でさ、中一のバレンタインに私から告ったの」

 いきなり語りはじめた佐原と藤本の話に、俺はどう反応していいのか困った。他人の恋愛話などをじっくり聞く機会なんて今までなかったぞ。

 とはいえ縁のこともあるし、話の腰を折らないよう心掛け、俺も一番近くにあったパイプ椅子に座る。隣にいたユイもそれに倣った。佐原は俺が座ったのを確認してから話を続ける。

「まさかOKもらえるとは思わなかったんだけど、それからずっと付き合ってて。『高校も一緒のところに行こう』ってここ受けてさ」

「意外と長い付き合いなんだな」

「そうよ!」

 俺の相槌に、力のこもった佐原の声が響く。こちらに向けられた顔はすごい形相だ。あまりの迫力にユイはビビッてしまっている。しかし佐原の勢いは止まらない。