ホームルームが終わってから、佐原に指定された進路資料室に向かう。部屋を囲むように本棚が並び、各大学の赤本がびっちりと敷き詰められていて目にはあまり優しくない。

 真ん中に長机がふたつとパイプ椅子が適当に並んでいる。主に二学期を過ぎてから高三あたりが使ったりするが、普段はそれほど利用者がいない。俺もここに来たのは二回目だった。

 佐原もまだ来ておらず、ほかの利用者もいないので、俺はまずエアコンのスイッチを探した。暑いというより、閉じこもった空気がむわむわとして不快だ。

 壁についているスイッチを最大にして入れると、久々に動いたといわんばかりの仰々しい機械音と冷風が部屋を包んでいく。落ち着いたところで、俺は地元の国立大学の赤本を手に取り、ぱらぱらと適当にページを捲った。

「シュウくんは、行きたい大学とか決めてるの?」

 部屋をぐるっと見回したユイが尋ねてきた。

「とくに。親からは私立は無理だから国立に行けって言われているけど」

 数ヶ月前までプロのダンサーを目指していた俺にとって、いまだに進路希望は真っ白だった。それでも進学は多分する。

 うちの高校はどちらかと言えば進学校で、大学への進学率も高い。みんながいくから俺も行く、その程度の気持ちしか今はない。

 そのときドアが音を立てて開いたので、俺たちの視線は揃ってそちらを向いた。

「本当に来たんだ」

 自分で呼び出しておいて、佐原は驚いた顔で告げた。さっきのしおらしい態度が嘘のようだ。

 なにも言い返さずにいると、佐原はドアを閉めて中に入り、一番近くにあったパイプ椅子に乱暴に座った。力強く足を振り上げて、どちらかといえば見せつけるかのごとく長い足を大胆に組むので、俺は自然と視線をはずす。