それから俺は昨日に引き続き、隣のクラスへ足を運んでみる。相変わらずなんて声をかけたらいいのかは思い浮かばないままだが。

「『忘れ物したから教科書を貸して』って言ってみたら?」

 隣でユイが懸命に提案してくる。しかし仲良くもない異性に教科書を借りなければならないほど、俺は知り合いがいないわけでもない。そもそも、そこからどうやって話を展開させるんだよ。

「うーん、もしくは神社の話題は?『俺も願掛けしたいんだけど効果はあるのか?』とか」

 それは率直に「彼氏ができたのか?」と言っているようなものだ。この短期間で彼氏ができていたら、それはそれですごいが。

 ユイの頑張りは認めたいところではあるけど、実益になるかといえば微妙なので少し黙っていて欲しい。

「佐原」

 そんなわけで俺は隣のクラスの入口から、思い切って彼女を呼び出してみた。一緒に弁当を食べていた女子たちの視線を一身に受け、なんとも居心地が悪い。

 これは、もしかすると昨日みたいに怖い顔で詰め寄られるパターンかもしれない。しかし呼ばれた本人は、昨日とは違って満更でもない顔でこちらに寄ってきた。

「なによ」

「ちょっと話があるんだけど」

 こちらまで佐原はやってきたので、廊下に出るよう促す。とくに反発もなかったので、邪魔にならないように少しだけ移動した。

 さて、ここからどうやって話を切り出せばいいのか。ユイは提案を諦めて「シュウくん、頑張れ!」と無責任な応援をしている。

 そこで口火を切ったのは意外にも佐原の方だった。

「なに? あんたが私の彼氏になってくれんの?」

「えーーー!?」

 言いよどんでいたところで、とんでもない発言が飛び出した。しかし、間髪をいれずにユイが耳元で大きな声で叫んだので、俺は驚くよりも先に咄嗟に耳を手で塞ぐ。