「おはよう、シュウくん」

「はよ」

 聞こえるか聞こえないか微妙な声で返す。朝はあまり得意じゃない。学校に向かう途中で神社に寄り、約束通りユイと共に学校に向かう。

 話しかけられてもほかの人には見えないユイに、大きい声で返すことはできない。ユイは気にする素振りなく、俺の隣に並んで子どもみたいにはしゃいでいる。

「シュウくんの学校ってどんなとこかな? 楽しみー」

 本来の目的を忘れていないか?という言葉をぐっと飲み込み、スキップでもしそうな勢いのユイを横目に俺は学校へ急ぐ。

 今はまだ雨が降っていないが、いつ降りだしてもおかしくないほどの黒い雲が空を覆っていた。

 佐原にどんなタイミングで声をかけようか悩みつつ、午前中の授業が滞りなく終わる。ユイは物珍しそうに校内の探検に出かけるなどして、俺の邪魔はあまりしてこなかった。

 そして、昼休みになって教室が一気に騒がしくなったのに乗じて話しかけてくる。

「シュウくんはお弁当?」

「パン」

 小声で端的に答える。今日も購買に買いに行こうと教室を出ようとしたときだった。

「なぁ」

 田島に呼び止められ、そちらに向く。田島のそばには彼の幼馴染の森野(もりの)直哉もいた。柔道部に所属していて、体つきはかなりいい。野球部に間違えられそうなほど、髪の毛を短く刈り上げている。

「なんだよ?」

「昼飯、一緒に食わねぇ? ちょうど俺たち、学食に行くところなんだけど」

「悪いけど、俺パンを買うから」

「じゃぁ、それもって学食に行こうぜ。俺も弁当だし」

 田島はにこっと人のいい笑みを浮かべて白い歯を覗かせた。男女ともに人当たりがよくて好かれるタイプだが、俺にとっては少々鬱陶しい。なんて断ろうかと悩んでいると……。