「つまり、その佐原さんは藤本くんが好きってこと?」

 今日得た情報を一通り話し終えると、ユイは簡潔にそうまとめた。

「どうなんだろうな。でも、だとしたら『両思いになりたい』って願うんじゃねーの?」

「そう、だよねぇ。縁の色も気になるし」

 腕組みした格好でユイが首を傾げた。どうもしっくりこないのは俺も同じだ。

「もう一回、佐原さんに話を聞いてみるしかないかなぁ」

「できれば、あまり関わりたくない」

 苦虫を噛み潰したような顔で俺は漏らした。これは正直な感想だ。佐原とは、ほんの少ししか会話をしていないが、どうも俺の苦手なタイプな気がする。

「シュウくんにも、そんなふうに思う女子がいるんだね」

「その言い方だと、なんか俺が女好きみたいだな」

 バレエを習っていたのもあり女子と話す機会は多かったが、それでもああいうタイプは得意ではない。ユイは「そうじゃなくて」と苦笑した。

「私みたいなのにも優しくしてくれるから、ちょっと意外だなって」

 みたいなの、とはどういう意味だ? ユイが人間ではないことを指しているのか、俺以外に見えないことについてか。

 俺は普段は意識しないように心掛けているユイの足元を見た。やはりそこに足はない。

「別に。佐原と話すんだったら、ユイと話している方がよっぽどいい」

 特段、意識せずに発した言葉だったが、何故かユイのほうが慌て出す。

「え、ええ? 私!?」

 なにを確認したいのかは謎だが、俺は軽く頷く。心なしか顔が赤くなっているユイに、声をかけようとしたところで下から母親に呼ばれた。

 匂いから今日はカレーだと察する。「すぐに行く」と返事をしてから立ち上がった。

「明日、私も学校についていっていい?」

 いちいち俺に確認をとらなくても、と思いつつ首を縦に振る。そしてユイはこの前と同様、そそくさと部屋をあとにした。

 今回はなにも悪いことは言っていないよな?

 そこで俺は、この前の件を謝りそびれてしまっているのに気づいた。

 なんだかうやむやになってしまったが、これでよかったんだろうか。魚の骨が喉に詰まったような、チクチクとした痛みが残る。

 再度、母親に呼ばれて、今度こそ俺は一階へ下りていった。