最初は『よくしてくれるお姉さん』という印象だった。それがバレエを続けて同じ舞台に立つようになり、いつしか『一緒に踊ってみたい』『あんなふうになりたい』と思う存在になっていった。

 それくらい彼女の踊りは人を惹きつけるものがあった。俺は踊るのも好きだったけれどバレエを観るのも好きだったんだ。

 そして俺が小学六年のとき、中学三年生だった美由紀さんはバレエコンクールのジュニア部門で優勝を果たし、スカラシップを獲得してカナダのバレエ団に一年間留学することになった。それが転機だった。

 俺は自分のことみたいに喜んで、嬉しくて。ただただ美由紀さんを尊敬するばかりだった。さらに、そんな美由紀さんに特別目をかけてもらえるのが誇らしくもあった。

 もちろん友達の弟だから、という理由が大きかったとは思う。でも優しくも的確なアドバイスをしてくれる彼女には、家族にも友達にも話せないバレエのことをなんでも話せた。

 美由紀さんへの憧れは募る一方だった。

『シュウくんも頑張ってね。私も頑張るから』

 美由紀さんが留学してからも、中学進学を機に買ってもらったスマホでメールのやりとりを繰り返し、俺は美由紀さんのあとを追って、プロのバレエダンサーを目指すと決めた。

 その旨を報告すると美由紀さんはすごく喜んで応援してくれた。ますますバレエ漬けになる生活だが、不満はない。

 好きなものに打ち込める、こうして頑張っていることが美由紀さんに近づけているのだと信じて疑わなかった。

 けれど現実は甘くなかった。必ずしも努力すれば報われるわけじゃない。もうずっと前から知っていたはずだったのに。

 結局、俺はプロになるどころかコンクールで決勝まで残っても、成績ひとつ残すこともできなかった。