「美由紀さん」
この名前を口にすること自体久しぶりだ。俺の掠れた声に相手は柔らかく微笑む。薄化粧で格好はジーンズにシャツという洒落っ気のなさだが、細身の彼女はなにを着ても似合うし、やっぱり綺麗だった。
「久しぶりだね。足の怪我は大丈夫? 調子は?」
「大丈夫です」
そっか、と美由紀さんは心底安心した顔を見せた。その表情が胸に突き刺さる。いつのまにか心臓は早鐘を打ち出し、口の中は渇いていった。これ以上彼女の言葉を聞くのが怖い。
「シュウくん」
深く沈んでいく意識をその場に戻したのはユイの一声だった。余計なことは一切言わずに心配そうな面持ちで俺を見ている。そこで俺は再び美由紀さんの顔を見て頭を下げた。
「すみません、俺はこれで」
「シュウくん! 私、再来週の頭にこっちを出るの。それまでによかったら連絡して」
横を通り抜けて玄関のドアを開けた俺のうしろから美由紀さんの声が飛んできた。なんて答えていいのか言葉が浮かばず、軽く会釈をして黙ったまま扉を閉める。
連絡するとも、しないとも言えなかった。
姉ちゃんに声をかけられたが、内容は耳に入ってこず、自分の部屋までなにかを振り払うように駆け上がる。
湿っぽい空気が体を包んで不快だった。電気をつけてから窓を全開にして網戸にすると、わずかに涼しい風が入ってくる。
その風を受けつつ制服を脱ぎ捨て、素早く部屋着に着替える。ユイは黙って部屋の片隅に突っ立っていた。
この名前を口にすること自体久しぶりだ。俺の掠れた声に相手は柔らかく微笑む。薄化粧で格好はジーンズにシャツという洒落っ気のなさだが、細身の彼女はなにを着ても似合うし、やっぱり綺麗だった。
「久しぶりだね。足の怪我は大丈夫? 調子は?」
「大丈夫です」
そっか、と美由紀さんは心底安心した顔を見せた。その表情が胸に突き刺さる。いつのまにか心臓は早鐘を打ち出し、口の中は渇いていった。これ以上彼女の言葉を聞くのが怖い。
「シュウくん」
深く沈んでいく意識をその場に戻したのはユイの一声だった。余計なことは一切言わずに心配そうな面持ちで俺を見ている。そこで俺は再び美由紀さんの顔を見て頭を下げた。
「すみません、俺はこれで」
「シュウくん! 私、再来週の頭にこっちを出るの。それまでによかったら連絡して」
横を通り抜けて玄関のドアを開けた俺のうしろから美由紀さんの声が飛んできた。なんて答えていいのか言葉が浮かばず、軽く会釈をして黙ったまま扉を閉める。
連絡するとも、しないとも言えなかった。
姉ちゃんに声をかけられたが、内容は耳に入ってこず、自分の部屋までなにかを振り払うように駆け上がる。
湿っぽい空気が体を包んで不快だった。電気をつけてから窓を全開にして網戸にすると、わずかに涼しい風が入ってくる。
その風を受けつつ制服を脱ぎ捨て、素早く部屋着に着替える。ユイは黙って部屋の片隅に突っ立っていた。