「あんた、LINEのIDとか全部消して新しいのにしたんでしょ? 連絡とりたがってたよ。っていうか、とってあげなよ」

「姉ちゃんには関係ねぇじゃん」

 ぶっきらぼうに返すと急に姉ちゃんが勢い任せに身を乗り出してきた。

「関係あるわよ。はー、やだやだ。あんた、そんなんだから“あまちゃん”なのよ」

「うっせーな!」

 わざとらしく小馬鹿にした口調で言われ、俺は噛みついた。しかしそれ以上はお互いに言葉が続かず、しばらく沈黙に包まれる。

 姉ちゃんはため息をつくと、そのままなにも言わずにドアを閉めた。おかげで微妙な空気が部屋に漂う。それを振り払うかのようにユイが口火を切った。

「っと、美由紀さんって誰?」

「ユイには関係ないだろ」

 反射的に返してから随分と冷たい言い方をしたと思った。振り向けば、案の定ユイは顔を強張らせている。なにか取り繕わねばと思ったが言葉が出てこない。

「ごめんね、余計なこと聞いて。今日は帰るね」

 消え入りそうな声が聞こえた次の瞬間、そこにユイの姿はなかった。そして、そのまま机に突っ伏す。

 八つ当たりなのは十分に理解していたけれど、それでも波立つ心が抑えられなかった。それにしたって相手が違いすぎるだろう。

 俺は軽くスマホを(いじ)った。なにかあっても友達ならLINEやメールですぐに送れるのに。嫌になったらやめることだってできる。バレエを辞めたとき、誰にも言わずにそれまでの連絡手段だったLINEを退会したように。

 明日、神社に行けば会えるだろうか。このままほうっておくのも気が引ける。傷つけた自覚がある分だけに。

 本当になんなんだよ。

 落ち着かない気持ちが収まるどころか徐々に広がっていく。面倒臭くてたまらない。けれど、さっきのユイの顔が頭からずっと離れなかった。