声にすれば女子であるユイから『偏見だ!』と抗議されるのが簡単に予想できるので口にしはしない。ユイは俺の考えなど知る(よし)もなく明るく提案してくる。

「とりあえず、彼女の縁の先に何があるのかを見てみない?」

 俺は軽く肩をすくめる。結局はそれしかなさそうだ。彼女の顔はあまり覚えていないが、俺には縁が見える。しかも彼女は同じ学校だ。

「シュウくんはさ、彼女とかいないの?」

 再び机に向かって課題を解きはじめた俺にぽつりとユイが呟いた。

「いないし、いらない」

 端的に答えると急にユイが食ってかかるような勢いになる。

「なんで? もったいないよ! シュウくん、なかなか男前なのに」

「そりゃどーも」

「あと優しいし」

「普通だろ」

「シュウくんの好みのタイプってどんな人?」

 もう答えるのも面倒になり俺はユイを無視した。どうして女子はこういう話題が好きなのか。そのとき部屋のドアがいきなり開けられる。

「ちょっといい? 電話してた?」

「別に。なんだよっ?」

 顔を覗かせたのは三つ年上の姉ちゃんで自宅から地元の私立大学に通っている。俺が姉ちゃんの部屋に入るときはノックをしないと怒るくせに、反対の立場になるとこれだ。

 もちろんいちいち突っかかる気もない。(いち)言えば百返ってくるのは分かりきっているからだ。

「あのさー」

 珍しく歯切れ悪そうに姉ちゃんは言葉を濁している。しかしややあって続きを告げてきた。

美由紀(みゆき)がさ、今、日本に帰ってるみたいなんだよね」

 久々に聞いた名前に俺の頭も体もフリーズした。