脇目も振らずに一目散(いちもくさん)に賽銭箱の前まで来ると、彼女は鞄から財布を取りだし、小銭を放り投げる。音からすると数枚ははたいたようだ。同じ高校生でも俺とは全然違う。

「彼女、真剣になにを願うんだろうね」

 俺の隣でユイが呟いた。たしかに、わざわざここに参拝しに来たのが伝わってくる。鈴を一回だけ静かに鳴らし、頭を下げる姿も真剣そのものだ。

 彼女はそこまでしてなにを願うのか。手を合わせる音が二回響いて彼女はじっと目を閉じている。そして次の瞬間――

「素敵な彼氏ができますように!!」

 はっきりと大きな声が神社に響いた。

「はぁ?」

 完全な凡ミスではあるが俺は声をあげてしまった。しまった、と思ったときにはもう遅い。ユイも目を丸くしてこちらを見ている。そして参拝していた彼女もだ。

「誰!?」

 警戒が混じった鋭い声が聞こえ、俺は渋々と姿を現した。すると彼女は俺が同じ高校の制服を着ていることに動揺したらしい。

「え、今の、聞いて」

 しどろもどろになりながら狼狽えだす彼女になんて声をかけようかと迷っていると、彼女は背中を向けて走り出した。

「あ、おい!」

 呼び止めようとしたが、そのまま彼女の姿は見えなくなった。取り残された神社で生ぬるい風がシャツを肌にくっつけて不快感を(あお)ってくる。

 そして千切れそうな弱々しい紫と緑が入り交じった縁だけがそこには残っていた。目を凝らしてそれを見ていると強い視線を感じる。

 それは俺の隣でなにも言わずに責める目をしているユイのものだった。