「俺はもうバレエを諦めたんだ!」

 なんで言わせるんだ、という気持ちも混じって乱暴な口調になった。ところがユイはきょとんとした顔になり、その表情が理解できずにユイの方をつい見つめる。

「諦めたのはプロになるのを、でしょ? バレエまで諦めなくてもいいじゃない」

 当然と言わんばかりのその言葉に俺は固まる。木々の葉が擦れる音が一瞬だけ大きく聞こえた。

 ユイはわずかに目を細めて続ける。

「そんなにずっと好きだったのを簡単に諦めたりできないよ。それに、私が諦めて欲しくないんだ。だってシュウくんは……あ、誰か来たみたい!」

 ユイが入口の方に目をやったので、俺は慌てて(やしろ)の影に入る。何回かここで待っていて気づいたのだが、どうも俺の存在は参拝者にとって邪魔なだけらしい。

 こんな小さな神社にお参りにやって来て男子校生がひとり佇んでいたら、不審に思われるだけだ。その証拠にこちらをチラチラ気にする人、俺の姿を見てお参りせずに引き返してしまう人もいた。

 おかげでなにも悪いことをしていないのに、こうして俺は誰か来たら、参拝者から死角になるところでじっと身を(ひそ)めて様子を(うかが)うことにしている。これこそ見つかったらどう言い訳しても不審者極まりないが。

 影に入って少しだけ体感温度が下がった。そしてやってきた人影に息を呑む。

 緩くウェーブのかかった髪を肩下十せインチ以上伸ばした女子高校生だった。どうして断言できるのかというと、彼女は俺の高校の制服を着ている。

 赤のチェックのスカート、半袖のシャツにリボン。顔は見たことがないが気だるそうな表情は、どこか大人びていて目を引いた。