「ありがとう、シュウくん。私、男の子と相合い傘なんてはじめてだ」

「そりゃよかった……のか?」

「うん、よかった」

 とびきりの笑顔でユイは笑った。なんだか嬉しそうだ。そして照れくさそうにこちらに視線を寄越してくる。

「こうして隣に立ってみるとやっぱりシュウくんは背が高いね。何センチ?」

「そんなに高くもねーよ。百七十五」

「えー。もっとあるように見えるよ! 細いからかな? 体重は?」

「五十キロジャスト」

「えー! 百七十五もあるのに!?」

 他愛ない話をして家路につく。誰かが見たら俺はひとりにも関わらず妙な傘の持ち方をして独り言を連発している変なやつなのだろう。

 でも今はそんなことどうでもよかった。 ここにユイはいるのだから。俺には見えて、声も聞こえている。

「ユイ」

 話しかけようとなにげなく視線を横にすると、ユイはこれでもかというくらい目を見開いている。

「どうした?」

「だって、はじめて」

「相合傘が?」

 それはさっきも聞いた。するとユイは少しだけ眉を寄せて、それでも弾けんばかりの笑顔になった。

「違うよ。シュウくんが私を『ユイ』って呼んでくれたのが!」

 指摘されて俺も気づく。今まではずっとユイをあんた、と呼んでいた。おかげでそちらに気をとられ、続けようとした言葉は言い損ねてしまった。

 ありがとう。ずっと抱えてた行き場のない思いをこんな形で吐き出させてくれて。

 傘が雨を弾いて音を立てる。足元も濡れてきて不快だ。やっぱり梅雨は嫌になる。それでもユイは楽しそうに顔を綻ばせていた。

 雨は当分止みそうもない。けれど俺の心は天気とは裏腹にどこか晴れ晴れとしていた。