きっとできる、とユイは力強く首を縦に振る。そして当たり前かもしれないが、そう言ったユイには両親がいないのだと思うと複雑な気持ちになる。

 俺はバレエでなにも結果が残せなかった。両親には無駄な投資をさせたのかもしれない。申し訳ないと思うけれど、それ以上に本当に有り難いと思っている、感謝している。

 伝え、られる……か? 今すぐには無理だとしても。

 ふと頭に冷たいものを感じて視線を泳がせると、公園の乾いた土が水玉模様を作りはじめている。どうやら天気予報どおり雨が降ってきた。

「降ってきちゃったね」

 そう言って空を見上げるユイはもちろん濡れたりはしない。俺は立ち上がってベンチの端に立て掛けていた傘を開いた。

 小気味のいい音と共に透明のビニールが小さな屋根を作る。そのまま歩き出した俺にユイも遅れてついてきた。徐々に雨は強くなっていく。そして公園を出たところで俺は立ち止まった。

「ほら」

 目線をうしろにやって声をかけると不思議そうな顔でユイはこちらを見ていた。右肩にもたれかけていた傘の中棒を浮かせて持ち手に力を入れ右にスペースをつくる。それでなんとなく意味を察したらしい。

「え、そんな大丈夫! 私、濡れないし!」

 わざとらしく手を大きく振ってアピールしはじめる。濡れないどころか見えるのも声が聞こえるのも俺だけだ。それでも。

「いいから。濡れなくてもわざわざ雨の中を歩かなくてもいいだろ」

 どちらが、わざわざなのかは分からない。それでも躊躇っているユイに俺は踵を返した。

「別に無理にとは言わない」

「あ、シュウくん待って!」

 慌ててユイが追いかけてきたので俺はさっきしたように右にスペースを作ると遠慮がちに隣に並んできた。