一通りのリハビリメニューをこなし、病院を出た頃には午後六時半近くになっていた。あちこちからいい香りが漂い、空腹を刺激される。

 この変わった整形外科は商店街の中にあった。おかげで病院前の駐車場は数が少なく、いつも激戦だ。

 こればかりは患者数に合っていないと思うが、目の前のバス停から乗り降りする人も多い。

 時刻表と腕時計を交互に見る。なんとも中途半端な時間だった。なにより目の前の道路には車が列をなして、バスが時刻通り来るとも思えない。

 この時間帯は環状線に抜けようとする車で混んでいるのが、当たり前の光景だった。すぐ先の交差点で信号が青になっても、左折したい車と歩行者が()き止めてなかなか車が動かない。

 少し進んではブレーキランプが波打つように点灯するのをじっと見つめた。

 一瞬だけ悩み、俺は歩き出す。ギブスもとれて日常生活にはほとんど支障もないから、家まで歩くことにした。

 どうせ停留所ふたつ分だ。そこまでの距離もない。

 いつもなら適当にやりすごしてバスを待つのに、このときはなんだか動きたかった。それに、この商店街はいつも病院に来るだけで、ほかにどんな店が入っているのかということを俺は知らない。

 半ばシャッターを下ろしている鮮魚店、歩道にはみ出そうなくらい果物を並べている青果店、年配層をターゲットにしたブティック、こぢんまりとした美容室、本当に多種多様だ。

 ただし、俺が時間を潰せそうな本屋とかは見当たらない。

 店の内容をちらちらと確認しながら歩いていると、視界に小さな立て札が目に入った。

 茶色く染みのある板には【月白(つきしろ)神社 良縁祈願】の文字と奥にある小さな神社の説明が書かれていた。

 どこかで聞き覚えがある、と思ったがすぐにひらめいた。この商店街の名前が月白商店街といった。それにしても、こんな商店街の建物と建物の間に神社とは胡散臭すぎる。

 それでもよく見れば、きちんと鳥居があって奥に細く石畳が続いていた。参道の両脇には木々が生い茂り、なんとも不気味だ。

 この先に神社があるのかも怪しいし、なにより変なやつと遭遇したらたまったもんじゃない。