「多分、俺がバレエを辞めて家族としては金銭的にも将来的にもホッとしてると思う。いろいろ言われてたし。でも……」

 そこで俺は言葉を濁した。呼吸が苦しくなり、声を出すのが難しく感じる。だから続けられたのは一言だった。

「ずっと応援してくれてたんだ」

 ぐっと唇を噛みしめてうつむく。なんだかんだ言って、俺がプロを目指すためにほかの教室に通いたいと言ったときも、コンクールに出たいと告げたときも、母さんは結局は叶えてくれた。

 父さんも空いているときはレッスンの送り迎えをしてくれて、姉ちゃんも発表会は予定をいれずに欠かさず見に来てくれた。

 家族全員、コンクール前に怪我をして大荒れだった俺に対して、懲りずに普通に接してくれた。そんなふうにずっと応援して支えてもらっておいて俺は――

「なにも返せなかった。本当は応えたかったのに」

 結果も残せず辞める事態になって、申し訳なさやうしろめたさから、出てくるのはひねくれた言葉ばかりで。両親にきちんと話す、と強い意思をもった翔人を見て気づかされた。

 本当にバレエを辞めたくないなら、諦めたくないなら両親がどう言っても、必死で説得して頭を下げて(あらが)えばよかったんだ。

 それをしなかったのは俺自身で、どこかで諦める気持ちもあって、両親もそんな俺の本心を見抜いていたんだ。両親との約束だから、と反発しながらも受け入れたのは自分だ。全部、俺の意思なんだ。

「馬鹿だよな、俺」

「そんなことない! だってシュウくんはバレエが好きなんでしょ? ほかのものを差し置いてもかまわないくらい情熱を注げるものなんてなかなか見つからないよ」

 今まで黙って話を聞いていたユイが弾かれたように声をあげた。