「……鉛筆の色だったのかもな」

 ふと公園の隣を通っているときに俺は口を開いた。

「え?」

 ユイからの追究を逃れたいのもあって、今度はひとり言ではなく、ぶっきらぼうに相手に声をかける。

「あんたさ、昨日俺に言ったじゃん」

「ん?」

「いろいろ思ってんのは両親じゃなくて俺の方だって」

 そこでなんの話か理解したらしくユイは急に慌てだす。

「あ、あれは」

「いいよ。あんたの言うとおりだし」

 俺はユイを待たずに公園の中に入っていき、ベンチを目指す。遊具はブランコとジャングルジムだけというシンプルな作りで人はいなかった。

「シュウくん、あのね」

 ベンチの真ん中ではなく無意識に左に寄って座った。するとユイが躊躇いつつ隣に腰かけてくる。

 雲が太陽を隠しているから、いつもなら現れる影も今は見えない。ユイからの視線を感じたが、そちらには顔を向けられなかった。

「俺さ、バレエが好きな気持ちもプロになりたかったのも本当だった。でも、どこかで無理だな、つーか自分の可能性を諦めてたとこもあった」

 唐突に語りだしたのは今まで誰にも話したことのない自分の本音だった。口に出したら、もう進めなくなるんじゃないかって思って怖くて言えなかった。頭で思っていることを声にするのはこんなにも難しいのかとさえ思う。

 バレエ教室には自分より上手いやつがたくさんいて、コンクールに出てもかすりもしない現実。入賞者の踊りを見れば自分にはないものを、それが才能と呼ばれるものなのかは分からないけど、確かなものを持っているのだと感じて。

 それが幾重にも重なり、やがて自分を信じると気持ちが揺らいでいく。不安や不信が振り払えなくなっていく。