「あの、いろいろありがとうございました」

 翔人の家をあとにする際、彼は再度俺に頭を下げた。

「なにかばあちゃんから聞いてたんすか? この絵本を見つけてもらっちゃって」

 質問に俺の心臓はドキリと鳴った。隣にいるユイと視線を交わして少し考える。

「いや、そういうわけじゃないけど。ほら、ばあちゃんあの神社にアンの散歩に来てたって言っただろ? でも目的は散歩だけじゃなくて、参拝もあったんじゃないか。なんたってあそこの神社は縁を結んでくれるんだし」

 ここに来る途中で気づいたのだが、月白神社よりも大きな神社が翔人の家の近くにはあった。わざわざ月白神社に散歩がてら寄っていたのは、それなりの意味があったんだと思う。もちろんこれは俺の勝手な推測だけど。

 翔人は俺の言葉を受けて、意を決したようにこちらを見据えてくる。

「俺、もう一回、両親とちゃんと話し合ってみます。反対されるのは目に見えてるけど、でもせっかく見つけた好きなことを分かって欲しいから」

 彼の瞳に迷いはなかった。羨ましいとさえ思うほどの揺るぎのなさだ。それに対して俺は「頑張れよ」と一言だけ返した。

「アンは、おばあちゃんの気持ちを伝えたかったんだね」

 今までほとんど口を利かなかったユイが、俺とふたりになったところで話しかけてきた。

「もしかしてアンの名前もあの絵本からつけたのかなぁ?」

「さぁな」

 俺はなんだか浮かなかった。空を見上げれば、今にもあの分厚い灰色の雲から雨が零れ落ちそうな勢いだ。

 亡くなった翔人のばあちゃんの想いをアンは託されていた。その縁は灰色で、ユイは人ではない場合の色に多いと言っていた。でも、それだけじゃないとなんとなく思う。

 あの絵本、そして翔人の絵を思い出す。