「俺も見ていいか?」
翔人から絵本を受け取り一枚ずつページを進めていく。何度も読んだらしく、本を閉じているところは少し緩くなっていた。
一匹の犬がなにかを求め、ひたすら歩いている絵から話は始まる。さまざまな人で出会い、別れを繰り返すが、犬は諦めずに前に進んでいく。
最終的に、犬はある少年と出会う。ずっとお互いに探していたとでもいうようなそれぞれの表情。寄り添いながらふたりが同じ道をゆっくりと歩きだすという絵で物語は締めくくられていた。
文字も色もない絵なのに、白黒だけの世界にぐんぐん引き込まれる。物語を追って、最後のページをめくったが特に変わったところはない。
アンは持ち主である翔人の祖母が亡くなっても、この本とずっと繋がっていた。なにを望んでいるのだろうか、なにかを託されたのか?
アンのつぶらな瞳を見て、俺は本のカバーに手をかけた。背表紙にかかっていた部分をなにげなくひっくり返して、思わず息を呑む。
そこで、ようやく理解した。アンはこれを見せたかったんだ。俺は翔人に本を静かに戻した。
「うしろのカバーをめくって、裏側を見てみろよ」
翔人は不思議そうな顔で、言われたとおりカバー裏に目をやる。そこには小さな、けれど流麗な文字が書かれていた。
『しょうちゃんも、この犬みたいにかけがえのないになにかに出会えますように』
しばらく翔人はなにも言わず、じっと文字を見つめていた。そして慈しむ手つきでその箇所を何度も指でなぞってから静かに唇を動かす。
「しつこいくらい『なにか好きなことは見つかったかい?』って聞いてきて。それが鬱陶しいときもあって。でも思えば、ばあちゃんの膝で読む文字もない絵だけで魅せるこの絵本が本当に大好きで、だから絵を描くことに興味をったのかもしれないす」
そこで言葉を切ると、翔人は長く息を吐いた。
「ばあちゃんに、『絵を描くのが好きだ』って伝えてやればよかった」
その声は震えていたので、俺はそっと翔人から視線を外した。
翔人から絵本を受け取り一枚ずつページを進めていく。何度も読んだらしく、本を閉じているところは少し緩くなっていた。
一匹の犬がなにかを求め、ひたすら歩いている絵から話は始まる。さまざまな人で出会い、別れを繰り返すが、犬は諦めずに前に進んでいく。
最終的に、犬はある少年と出会う。ずっとお互いに探していたとでもいうようなそれぞれの表情。寄り添いながらふたりが同じ道をゆっくりと歩きだすという絵で物語は締めくくられていた。
文字も色もない絵なのに、白黒だけの世界にぐんぐん引き込まれる。物語を追って、最後のページをめくったが特に変わったところはない。
アンは持ち主である翔人の祖母が亡くなっても、この本とずっと繋がっていた。なにを望んでいるのだろうか、なにかを託されたのか?
アンのつぶらな瞳を見て、俺は本のカバーに手をかけた。背表紙にかかっていた部分をなにげなくひっくり返して、思わず息を呑む。
そこで、ようやく理解した。アンはこれを見せたかったんだ。俺は翔人に本を静かに戻した。
「うしろのカバーをめくって、裏側を見てみろよ」
翔人は不思議そうな顔で、言われたとおりカバー裏に目をやる。そこには小さな、けれど流麗な文字が書かれていた。
『しょうちゃんも、この犬みたいにかけがえのないになにかに出会えますように』
しばらく翔人はなにも言わず、じっと文字を見つめていた。そして慈しむ手つきでその箇所を何度も指でなぞってから静かに唇を動かす。
「しつこいくらい『なにか好きなことは見つかったかい?』って聞いてきて。それが鬱陶しいときもあって。でも思えば、ばあちゃんの膝で読む文字もない絵だけで魅せるこの絵本が本当に大好きで、だから絵を描くことに興味をったのかもしれないす」
そこで言葉を切ると、翔人は長く息を吐いた。
「ばあちゃんに、『絵を描くのが好きだ』って伝えてやればよかった」
その声は震えていたので、俺はそっと翔人から視線を外した。



