「ここって開けたらマズイか?」

 突然の俺の申し出に翔人は、怪訝な顔になる。

「ええ!? でも布団とかを詰め込んでるだけっすよ? あとばあちゃんの遺品とか」

「それを見せて欲しいんだ」

 いきなり妙な頼みをしているのは重々承知だが、間違いなくアンの縁の先はそこだと確信した。翔人は躊躇いつつもふすまを開けて腰をかがめると、奥にしまってあるダンボールを引っ張り出してきた。

「整理したのは親で、そんなたいしたもんは残ってないと思うんすけど」

 一応、翔人に確認してから中を開ける。そこには服や手紙などが入っていて、よくあるばあちゃんちの匂いがした。そして慎重にアンと繋がっている灰色の縁の先を辿っていく。

「これっ!」

 ゆっくりとダンボールの中から取り出すと声を上げたのは翔人だった。それは一冊の本だった。

「うわぁー、懐かしい。ばあちゃんこれずっと持ってたんだ」

 驚いている翔人に手渡すと、翔人は懐かしさに感動して本の表紙をさすった。『アンジェラ―ある犬の物語―』というタイトルがついている。

 薄さや大きさからして絵本だろうが、どこか大人な雰囲気だ。表紙には鉛筆で描かれた一匹の犬がこちらをじっと向いている。あまり子ども向けの感じはしない。

「これ、ばあちゃんが買ってくれたんすよ。最初は兄ちゃんに、と思っていたらしいんすけど絵が独特で兄ちゃんはあまり好きじゃなかったみたいで。なんか俺の方が気に入って何回も見ていたみたいです」

 翔人はパラパラとページを(めく)りだす。文字はなく、表紙と同じく鉛筆で描かれた絵だけで物語は進んでいっている。

 灰色の縁でアンとこの本は繋がっていた。いったい、どういうことなんだ? アンはこの絵本を翔人に見せたかったのか?