全身レオタードのような作りでスパンコールが(ほどこ)され、それぞれの役柄に合わせ、きめ細かい模様がかたどられている。

 あんな衣装で街をうろうろしていたら間違いなく通報されるだろう。

「え、あれ着て練習するの? それとも発表会用? そもそもあれって自前なんだ」

 ユイは次々と疑問を口にした。

「あれは全部コンクール用だよ」

 答えてから立ち上がると、再びクローゼットのドアをスライドさせた。俺に続いて、ユイもベッドからこちらに寄ってくる。

「なんか王子様みたい」

「まぁ、王子だしな」

 ユイの前にかかっている衣装はジークフリートの衣装だった。『白鳥の湖』に出てくる王子役だ。黒い衣装には細やかな金の刺繍がよく映える。

 確か二年前に踊ったものだ。物珍しそうにユイが衣装を眺めているので、よく見えるように出してやった。

「すっごく綺麗」

「そりゃそうだろ。たしか七、八万したし」

「な、なな?」

 急にユイが(おのの)いて衣装から距離をとった。距離があってもなくても触れることができないユイには関係ない話だとは思うんだが。

「なんで、そんなにするの!?」

 それは俺に聞かれても困る。むしろ俺だって知りたい。

「オーダーメイドだし特殊だからじゃないか」

 出していた衣装を再びクローゼットにしまう。先程母親に言われた言葉が頭を過ぎってつい眉をしかめた。

「だから親が反対する理由も分かるだろ?」

 それをユイにぶつけるわけではないが自嘲的に同意を求める。