「いきなり声かけんな! そんでなについてきてんだよ!」

 声の主は勝手知ったる様子で俺のベッドでくつろぎはじめる。

「あ、ごめん。さすがにズボンを脱ぐときは部屋から出て行くから」

「そういうこと言ってんじゃないって」

 もう本気で怒るのも馬鹿らしくなってくる。俺はクローゼットを閉めてとりあえず上だけ着替えた。ベッドは占領されているのでしょうがなく勉強机の椅子を回して腰掛ける。

「なんだよ」

「そう怒らないで。折角だからシュウくんをもっと知りたいなって思っただけだよ」

 苦笑するユイに俺は眉間に皺を寄せたまま尋ねた。

「知ってどうすんだよ」

 するとユイは腕を組んでわざとらしく考える素振りを見せる。

「どうしたい、っていうのはないんだけど。こんなふうに誰かと話したりするのってなかなかないから」

 俺は目を見張った。今、俺がこうしてユイを見えているのが特殊な状況で、ユイは普段はひとりなんだ。話すどころか、存在を誰に気づかれることもなく。

 もしかしてアンに必要以上にかまっていたのも、吠えられるだけでも自分の存在を認識してくれているのが嬉しかったからなのか?

 俺は軽く息を吐いた。

「俺のなにが知りたいんだよ」

 残念だが、俺は女子が盛り上がる楽しい話題の振り方は知らない。だから、こんなふうにしか言えない。

 ところがユイは目を丸くして、ものすごく嬉しそうな顔になった。

「えっとね。じゃぁ、さっきのあの服ってなに? シュウくんの趣味?」

「んなわけねーだろ。バレエの衣装だよ」

 閉じられたクローゼットを再び指差すユイに俺はすかさずツッコんだ。