「むしろ、なんで人間だけだと思うの? 縁はあらゆるものを結んでいるよ。生き物はもちろん、物とか時間とか、出来事さえも」

「あっそ」

 俺は興味なく返した。ならば俺がバレエを辞めたのも、この怪我もすべて俺の引き寄せた縁だったというんだろうか。

 暗い気持ちが心を覆いそうになる。それを跳ねのけたのは、ユイのいつもどおりの明るい声だった。

「それにしてもシュウくん、さすがだね! ほぼ初対面なのに、家に行く約束を取り付けるなんて。アンと話ができない分、この縁の先になにがあるのかを知る必要があるだろうし」

「別に、たまたまそういう流れになっただけだ」

「そうなの?」

 生憎、俺にはそこまで先を読んで会話できるほどの計算高さはない。俺自身もいきなり家に呼ばれるとは思ってはいなかったが、結果オーライというやつだ。

「シュウくんの人徳だね」

「そんなんじゃねーって。なんて言うんだっけ、えーっと同病……」

同病相哀(どうびょうあいあわ)れむ?」

 かっこよく決めたかったのに言葉が出てこなかったら、ユイがさらっと先を続けた。

「そう、それ。俺は家族に言えないほどでもなかったけど、なんか気持ちが分かるなって」

 だから正直、アンの縁よりも翔人の絵の方が気になっていた。

 俺には姉が二人いて、ひとりは大学生でひとりは社会人だ。年が少し開いているからか、異性だからか、姉と比べられてなにかを言われることはあまりなかった。

 それでもバレエを続けていくうえで、あれこれ口を出されたのは事実だ。それが鬱陶しくてしょうがなかったけれど、最初から家族の誰にも自分の好きなことを認められないのは、俺よりずっとつらいと思う。

 とにかく今日の用事は済んだので、俺は家路につく。目を空に向ければ、分厚い雲が遠くまで続いている。明日からいよいよ六月だ。天気予報では、しばらく降ったり降らなかったりと空の機嫌は落ち着かないらしい。