「ばあちゃんには、絵が好きだって話をしたのか?」

 改めて翔人に尋ねてみると、彼は不思議そうな顔になった。

「まさか。親に反対食らってから、誰にも言ってないっす。ばあちゃんは会うたびに「なにか好きなことは見つかったかい?」って聞いてくれてましたけど、適当に誤魔化してました。兄ちゃんのことは、応援してたし褒めてましたけど」

 軽く挨拶をし、こちらに背を向けた翔人とアンを見送る。そして二人の姿が見えなくなったところで俺はユイに向き直った。

「あんた、アンと遊んでただけじゃねーか」

 やや怒気を含ませてみたが、ユイはいつもの調子で返してきた。

「遊んでないよー。むしろ近寄らせてもらえなかったし」

 しくしくとわざとらしい泣き真似つきだ。だが次の瞬間、ユイは急に真面目な顔になる。

「翔人くんをここに連れてきたのはアンじゃない? なんとなくだけど強い意思を感じた」

 その言葉に俺も頷く。

「ああ、昨日は分からなかったけど、この縁の持ち主は翔人じゃなくてアンだった」

 翔人と一緒にいたし、先入観でこの縁は勝手に翔人のものだと思っていた。しかしよく見るとこの縁はアンのもだったのだ。

 これでユイの言っていた通り、縁の色が灰色なのにも納得がいく。縁の結ばれた相手は人間ではなかったんだ。

「やっぱりそうなんだ!」

 おどけて言うユイに脱力する。本当に彼女がどこまで本気なのかまったく分からない。

「『やっぱり』じゃねぇよ。犬相手なんてますますどうすんだよ。話も聞けねえし、この縁の先が埋めた骨とかだとしても俺は知らないからな」

「それはそれでいいじゃん!」

 満面の笑みを浮かべるユイに対して、俺はこうべを垂れた。そもそも動物にも縁があるなんて聞いていない。