「すげーじゃん。俺、絶対に描けって言われても描けねーよ。ほかの絵とかねぇの?」
もっと見たい、という欲求を素直に突きつけると、翔人は目をぱちくりと開けて、わざとらしく咳払いをした。
「よかったら、俺んちに見に来ます?」
「え、いいのか? 部屋に飾ってあんの?」
「飾ってませんって。絵を描いてるのは家族には内緒ですから」
急に声のトーンが下がった。「どうして?」と俺が尋ねる前に、翔人は観念したように肩を落とす。
「あーもう。他人だから言うんですけどね。俺、ゆくゆくは美術系に進みたかったんです」
「なんで過去形なんだよ。お前、まだ中三だろ?」
「諦めました。つーか、親が許すわけないし」
その声は、諦めというより悲しみも混じっていた。頭を垂れた翔人は、力なく事情を語り出す。
「一度、親に言ったんすよ。『もっと絵が上手くなりたい。絵の勉強をしたい』って。そしたら『なにを馬鹿なこと言ってるんだ!』って一蹴されました。『兄ちゃんを見習って、目標をもって努力しろ』なんて言ってたくせに。切り出したらそれっすよ」
俺は他人事とは思えずに、なんだか胸が軋んだ。翔人の声はどんどん荒んでいく。
「なんなんすかね。『医者になりたい』っていう兄ちゃんは全力で応援して、塾とか予備校とかのお金も出すくせに、俺はその目標自体否定されて。アホらし」
俺がバレエを辞めたのも両親との約束があったからだ。高一までに、という条件も『ダンサーの道が駄目なら、手遅れにならないうちに大学受験に軌道を修正してほしい』ということだった。
最初から否定はされなかったけれど、やはりうちの親も俺がダンサーを目指すのは反対だったと思う。
翔人は顔を上げて遠くを見つめた。
もっと見たい、という欲求を素直に突きつけると、翔人は目をぱちくりと開けて、わざとらしく咳払いをした。
「よかったら、俺んちに見に来ます?」
「え、いいのか? 部屋に飾ってあんの?」
「飾ってませんって。絵を描いてるのは家族には内緒ですから」
急に声のトーンが下がった。「どうして?」と俺が尋ねる前に、翔人は観念したように肩を落とす。
「あーもう。他人だから言うんですけどね。俺、ゆくゆくは美術系に進みたかったんです」
「なんで過去形なんだよ。お前、まだ中三だろ?」
「諦めました。つーか、親が許すわけないし」
その声は、諦めというより悲しみも混じっていた。頭を垂れた翔人は、力なく事情を語り出す。
「一度、親に言ったんすよ。『もっと絵が上手くなりたい。絵の勉強をしたい』って。そしたら『なにを馬鹿なこと言ってるんだ!』って一蹴されました。『兄ちゃんを見習って、目標をもって努力しろ』なんて言ってたくせに。切り出したらそれっすよ」
俺は他人事とは思えずに、なんだか胸が軋んだ。翔人の声はどんどん荒んでいく。
「なんなんすかね。『医者になりたい』っていう兄ちゃんは全力で応援して、塾とか予備校とかのお金も出すくせに、俺はその目標自体否定されて。アホらし」
俺がバレエを辞めたのも両親との約束があったからだ。高一までに、という条件も『ダンサーの道が駄目なら、手遅れにならないうちに大学受験に軌道を修正してほしい』ということだった。
最初から否定はされなかったけれど、やはりうちの親も俺がダンサーを目指すのは反対だったと思う。
翔人は顔を上げて遠くを見つめた。