「俺、絵を描くのが好きなんです」
あまりにボソボソと喋るので、俺は思わず聞き返してしまう。
「え?」
「だーかーら、絵です、絵!!」
自棄になったのか、顔を赤くして翔人は叫んだ。そして俺は言われた内容を理解したと同時に、反射的に感嘆の声をあげる。
「え、マジ? すげーじゃん! 俺、絵とかめっちゃ苦手だから尊敬するわ。なんか描いたのとかないの?」
素で出た言葉だった。それなのに興奮気味に話す俺に対して、翔人は何故か怪訝な顔をしている。
それから、しばらく迷う仕草を見せたあとで、翔人は鞄をさぐって、黒とオレンジが表紙のスケッチブックを取り出した。
手のひらよりも少し大きいサイズで、大事そうにめくってあるページを表にしてから俺に差し出してくる。
そこには白黒で描かれた風景が描かれていた。紫陽花の花が遠くまで並んでいる光景はどこか見覚えがあった。
「これって、もしかして紫陽花街道?」
「そうっす。アンの散歩途中に寄ってちょこちょこ描いてたんです」
この商店街を抜けてしばらく行くと、細い道を入ったところに地元ではわりと有名な紫陽花街道と呼ばれているスポットがある。
まさにこれからの時期に見頃を迎える紫陽花が、遊歩道沿いにずらりと色とりどりに並んでいるのだ。土日ともなると、この紫陽花を見るために臨時駐車場も設けられるほどの賑いっぷりになる。
肝心の絵は鉛筆か、コンテのようなもので仕上げられて単色なのにも関わらず、その光景がありありと目に浮かぶ。なんだかじめっとした梅雨独特の空気まで絵から伝わってきて、俺は純粋に感動した。
あまりにボソボソと喋るので、俺は思わず聞き返してしまう。
「え?」
「だーかーら、絵です、絵!!」
自棄になったのか、顔を赤くして翔人は叫んだ。そして俺は言われた内容を理解したと同時に、反射的に感嘆の声をあげる。
「え、マジ? すげーじゃん! 俺、絵とかめっちゃ苦手だから尊敬するわ。なんか描いたのとかないの?」
素で出た言葉だった。それなのに興奮気味に話す俺に対して、翔人は何故か怪訝な顔をしている。
それから、しばらく迷う仕草を見せたあとで、翔人は鞄をさぐって、黒とオレンジが表紙のスケッチブックを取り出した。
手のひらよりも少し大きいサイズで、大事そうにめくってあるページを表にしてから俺に差し出してくる。
そこには白黒で描かれた風景が描かれていた。紫陽花の花が遠くまで並んでいる光景はどこか見覚えがあった。
「これって、もしかして紫陽花街道?」
「そうっす。アンの散歩途中に寄ってちょこちょこ描いてたんです」
この商店街を抜けてしばらく行くと、細い道を入ったところに地元ではわりと有名な紫陽花街道と呼ばれているスポットがある。
まさにこれからの時期に見頃を迎える紫陽花が、遊歩道沿いにずらりと色とりどりに並んでいるのだ。土日ともなると、この紫陽花を見るために臨時駐車場も設けられるほどの賑いっぷりになる。
肝心の絵は鉛筆か、コンテのようなもので仕上げられて単色なのにも関わらず、その光景がありありと目に浮かぶ。なんだかじめっとした梅雨独特の空気まで絵から伝わってきて、俺は純粋に感動した。