学校が終われば、速攻でバスか母親の車に乗り込んで教室に向かい、家には寝に帰るだけの生活。まさにバレエ漬け。でもまったくつらくはなかった。

 しかし違う教室に通うようになり、俺は自分がいかに井の中の蛙だったかを思い知る。教室に男子は何人もいて、みんな俺よりもはるかに上手かった。

 コンクール入賞経験者もざらにいて、コンクールにさえ出たこともない俺は完全にバレエの知識も技術も追いつかない、一番の下手くそだった。

 それでも楽しかったんだ、ただ純粋に踊るのが。バレエが好きだった。だからもっと上手くなりたくて必死だった。

 それでも、プロになるのは容易じゃはない。そしていつまでも目指せるわけでもない。「もしプロになれなかったら」という考えが何度も過ぎった。

 なんせ俺はプロを目指してコンクールに出るようになっても、優勝どころか入賞さえできなかったから。

 そんな俺に両親が出した条件は『高一までに、なにかしらの成果が残せないなら、きっぱりバレエは辞めること』というものだった。

 それに俺はなにも反論できなかったし、するつもりもなかった。引き返す最後のギリギリの妥協線だと自分でも分かっていたから。

 だから俺は最後のチャンスとして、高一の三月に名古屋で行われるコンクールにすべてをかけようと決めた。

 入賞者にはスカラシップという留学制度もあった。なにがなんでも、絶対に入賞してやると俺は強い気持ちで今まで以上に練習に取り組んでいた。

 家に帰っても過去の入賞者の動画を見てはイメージトレーニングをし、ストレッチや必要な筋トレも行い、万全を期して臨むつもりだった。それなのに……。