遠慮がちに言葉を紡ぐユイから視線を外して俺は遠くを見つめた。部屋中バレエだらけだったのを、辞めると決めて一気にまとめたのだ。

「元々親に言われてたんだよ。高一までになにかしらの結果を出さなかったら、バレエは辞めて受験勉強に専念しろって」

 吐き捨てるように告げた。そして勝手に自嘲的な笑みが零れる。

 バレエを習いだしたのは三才のとき。どうして習いだしたのかはほとんど覚えていない。

 その前から教室に通っている姉のレッスンの付き添いに母親と行っていたから、その影響で「俺もやりたい」と言ったのか、先生の勧誘があったのかは定かではない。

 とにかく俺はバレエを始めた。

 小さい頃は遊び半分だった。教室には男子が少なかったのもあり、発表会では同年代の女子たちが何人もで一幕を踊る中、早々にソロで踊らせてもらえた。

 舞台では緊張はしたが、スポットライトを一身に浴びるのは、言葉にできない快感があった。

 小学生になると、バレエを習っているネタでからかわれたりもした。どちらかといえば細身で色白だった俺は、弱々しい感じで、そんな外見もあったからなんだと思う。

 同年代の女子たちが次々と教室を辞めていくのを尻目に、俺はバレエを続けた。そして中学生になったとき、本気で「プロのダンサーになりたい」と思うようになった。

 それが俺にとって、どれほど遅い決断だったのか、いや時期の問題ではなかったのかもしれないが、とにかく俺が腰を上げたのは遅すぎた。

「本気でプロを目指すなら」と先生に勧められ、コンクール入賞者を何人も輩出している教室にも通いはじめた。

 自転車で通えていたのが、車で一時間以上かかる距離になり、公共交通機関を駆使したりもしたが、両親に送り迎えをしてもらわないとならないことも多々あった。