「言ったでしょ? 私は縁を強くしたり弱くしたりするだけだって。縁っていうのは、運命じゃない。気持ちが変わるように、自然と結ばれたり切れたりを繰り返して、みんな持っているものなの。元々ある縁を、どうするのかはその人次第。私は参拝に来る人の願うことを少し手伝うだけだよ」

 俺は呆気にとられた。つまり「アイドルと結婚したい」と必死に神頼みだけをしても、最初から縁がないなら無理というわけだ。まぁ、神頼みなんてそんなもんか。

「ますます俺がなにかをする必要なんてないような」

「そんなことないって! きっとシュウくんの方が力になるよ!」

 俺はユイの言葉に首を傾げた。なにを根拠にそう言ってんだよ。

「だいたい、こうして待ってても、この縁の主がまた来るって保証もねーだろ」

 嫌でも視界に入る縁を見て俺は眉を曇らせた。今日は昨日よりも時間が早いし、昨日、彼がここに来たのも偶然かもしれない。曖昧な確率に期待する意味はあるのか?

「また来るよ、絶対に」

 そんな俺の考えを打ち消すように、ユイは確信をもって力強く呟いた。なにか感じるものでもあるのか? さすが神様。と思っていると……。

「だって犬を連れていたんだもん。きっとまた散歩に来るよ! ねっ?」

 そういう話でもなかったらしく俺は脱力した。ふぅと息を吐いて空を見上げる。ここは静かだ。少し歩けば商店街の喧騒がすぐそこにあるのに、それをまったく感じさせない。

「シュウくんはさ、なんでバレエを辞めちゃったの?」

 いきなりの問いに俺は目を白黒させて隣を見た。するとユイは気まずそうな顔になる。

「シュウくんの部屋の片隅に置かれた段ボールに、バレエのCDとかDVDとかが乱雑に入れてあったし。体幹を鍛えるためのストレッチ道具とか。あれって最近になってまとめたものだなって」