「お礼を言うのは私の方だよ。ずっと迷って動けなかった私の手を引いてくれたのはシュウくんだもん。私、やっぱり生きたかった。つらくて、悲しくて、痛いことも多いけれど、生きててよかった」

 ユイの瞳から大粒の涙がこぼれる。初めて見る彼女の泣き顔だった。涙を拭うユイの姿に見惚れていると、俺はあることが気になった。

「そういえば、縁は相変わらず見えるのか?」

 するとユイは寂しそうに軽く首を横に振る。

「それがね、いいのか悪いのか分からないけど、目が覚めてからは見えないんだ」

 ユイの顔はどこか浮かない。

「ごめんね、シュウくんの縁を見てあげる約束だったのに」

 どうやら原因はそこにあったらしく俺は面食らった。そんな俺にかまわず、ユイは記憶を懸命に辿ろうとしている。

「実は、初めてシュウくんに会ったとき見えた縁も、かすかなものだったの。赤くて、でも不思議と、なぜかその先まではよく見えなくて」

 ユイは訳が分からないという顔をしているが、俺はなんとなく分かった気がする。俺が見たユイの縁もかすかなものだった。

 ユイは自分の縁は見えないという。そして俺は(ほど)けそうな糸を結んだ。あれはもしかして解けそうなんじゃなくて、“繋がりそう”だったのかもしれない。

「赤い糸だったんじゃないか?」

「え?」

 考え込んでいるユイの前に左手の小指を見せる。

「俺たちを結ぶ」

「シュウくんって意外とロマンチストなんだ!」

 照れ隠しからかユイは大袈裟に呆れてみせた。その顔も可愛いと思う。

 ユイのために、そして俺のために、神様が俺にあのときだけ俺たちの縁を見せてくれたのかもしれない。でも結ぶと決めたのは、結んだのは俺自身の意思だ。