控え室では、出演者同士や舞台を観に訪れた家族と写真を撮ったりして盛り上がっていた。そこまで大きいホールではないので、わりと楽屋まで自由に行き来できたりする。

「あんたのアルブレヒト、今までも何回か見てきたけど今回が一番よかったかも」

「本当、ものすごく切ないのが伝わってきたよ!」

「なんか踊りの感じが変わった?」

 姉ちゃんやほかの保護者たち、さらには共演者にまで口々に褒められ、なんだか照れくさくなった。そこから逃げるように間をすり抜け、差し入れが並べられている机の前に移動する。

 すでにスタッフによって分けられているので、俺は自分のコーナーを探す。じいちゃんやばあちゃん、なんと田島と森野からの差し入れもあった。

 あいつらは県外の大学に進学したが、帰省した際には集まろうとわりとまめに連絡を取り合っている。今日の舞台出演についても、もかなり前に話していたが本当に来てくれたらしい。

 俺は苦笑して添えられているぎこちないメッセージカードに目を通した。ほかにも、だいたいいつも贈ってくれる人たちからだった。

 そこでふと、一番端にあった小さな花束に気づく。俺のだろうかと思い、手に取って名前を確認すると、たった一言、見慣れない字で『シュウくんへ』と書かれていた。

 送り主の名前もメッセージも見当たらない。

 俺は勝手に相手を思い浮かべて、すぐにその考えを打ち消そうと頭を振る。そんな都合のいい話があるわけない。いや、でも……。

 心臓の音が煩くなり、居ても立ってもいられなくなった俺は、その場を駆け出した。