物悲しい音楽で舞台は最高潮を迎えた。割れるような拍手が湧き起こり、緞帳(どんちょう)がゆっくりと下がっていく。俺はゆっくりと息を吐いた。いよいよカーテンコールだ。

 再度幕が上がりはじめ、俺は気を引き締めた。ジゼル役の手を取って舞台の前に歩み寄り、観客に向かって頭を下げる。 レヴェランス――舞台最後の挨拶だ。

 まっすぐに前を見据えると、眩しいほどのライトに照らされる。観客の顔はよく見えないけれど、なんとも言えない達成感と肌に刺さる拍手に高揚感があふれる。

 俺なりのアルブレヒトを全力で踊りきることができた。

 見たか、ユイ?

 宙に向かって心の中で呟く。もちろん返事もなければ、ユイの姿も見えない。

 あれから二年が経ち、地元の国立大に進学した俺は、再びバレエを習いはじめた。プロを目指すのは断念したが、やはりバレエが好きな気持ちは本物で、未練がましく続けている。

 そして今日の発表会の演目は『ジゼル』

 俺はまたアルブレヒトを踊ることができた。最後にユイに叶えてやる、と言った約束を果たすのに二年もかかってしまった。長いようであっという間だった。

 ユイの姿を見ることはやはり二度となく、何度も神社に足を運んで、わざわざ新月や満月のタイミングを選んだりしてみたが結果は同じだった。

 一応、神社で今日の舞台の報告しておいたから、そこらへんに浮かんで一番いい席で見てくれていたかもしれない。そう願ってる。