まだ受け入れられない、いや正確には信じられない。

 彼女がいなくなったことが。

 夜の帳の奥深く、辺りを照らすものはなにもない。現実か夢なのか判断がつかないほど、境界が闇に溶けている。ここは煉獄の入口だろうか。

 思いを馳せながらも、こうして彼女の墓までやってきたのは、事実を受け入れるためだ。この自分を苛む後悔と、どうしようもない罪悪感に居ても立ってもいられなくなって。

 間違いなく彼女は死んだのだ。

 そういえば、彼女に自分の口から本当の名前を告げることもなかった。

 朗らかに笑う彼女の優しい顔を思い出す。それなのに、その顔を歪めたのはほかでもない自分だ。

 あのときの彼女の顔が頭に焼きついて離れない。

 出会わなければよかった。結ばれることなどないと分かっていたのに、別れることが決まっていたのに。こんな結末が待っていると知っていたなら。

 知っていたなら――

 それでも俺は望んだ。だって俺は彼女のことを……。